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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)5529号 判決

原告

河内秀行

ほか一名

被告

坂本先

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して、原告河内秀行に対し、金八九五万五七二〇円、原告河内輝子に対し、金八九五万五七二〇円及びこれらに対する平成六年一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告らは、連帯して、原告河内秀行に対し、金八九五万五七二〇円、原告河内輝子に対し、金八九五万五七二〇円及びこれらに対する平成六年一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、交差点で右折車と直進車が衝突し、右折車の助手席同乗者が死亡した事故に関し、右被害者の遺族らが、右両車の各運転者に対し、民法七一九条一項、同法七〇九条に基づき、損害賠償を求めた事案である。

二  争いのない事実等

1  次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成六年一月一六日午前四時三〇分ころ

(二) 場所 大阪市住之江区南港東七丁目三番五五号先路上(以下「本件現場」という。)

(三) 加害車両1 被告島田俊秀(以下「被告島田」という。)運転の普通乗用自動車(なにわ五七て五二八九、以下「被告島田車」という。)

(四) 加害車両2 被告坂本先(以下「被告坂本」という。)運転の普通乗用自動車(なにわ五七ふ二三六五、以下「被告坂本車」という。)

(五) 事故態様 被告島田車が本件現場の交差点を南から東へ右折するにあたり、北から南へ直進してきた被告坂本車と衝突し、被告島田車の助手席に同乗していた河内宏之(以下「宏之」という。)が死亡したもの

2  被告坂本は、民法七一九条一項、同法七〇九条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償する責任を負う。

3  原告らは、宏之の両親であり、宏之の死亡により同人に生じた財産上の地位を法定相続分二分の一に従つて相続した(甲一)。

4  損害のてん補

原告らは被告島田から自賠責保険金三〇〇〇万円、被告坂本から一一六〇万一六〇〇円の合計四一六〇万一六〇〇円の支払いを受けた。

三  争点

1  被告島田の過失・無償同乗減額

(被告島田の主張)

被告島田は、対向車線に入る手前で一旦停止し、対向車両を確認した上で右折をしたのであり、本件事故の主たる原因は、被告坂本車が時速一一〇キロメートル位の速度で暴走してきたことにあるから、被告島田には過失がない。

宏之は、ドライブ目的の無償同乗者であるから、民法七二二条二項を類推適用して少なくとも二割程度の無償同乗減額をすべきである。

(原告らの主張)

被告島田は右折するにあたり、対向直進車の有無を十分確認すべき注意義務があるのにこれを怠つた過失がある。

無償同乗減額は、無償同乗自体を理由にすべきでなく、危険無謀な運転であることを承認して同乗する場合にのみ限られるところ、本件では右のような事情はない。

2  損害

第三争点に対する判断

一  争点1(被告島田の過失・無償同乗減額)

1  前記争いのない事実及び証拠(乙一ないし三〇、被告坂本、被告島田)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件現場は、南北道路(片側四車線)と右道路東側に突き当たる東西道路(片側二車線)が交差する信号機のあるT字型交差点であり、付近の状況は別紙図面のとおりである。右道路はいずれもアスフアルトで舗装された平坦な路面であり、付近は、水銀灯により夜間でも明るい。阪神高速湾岸線を南港北出口で降りて南進すると、南北道路(南行車線)に至るが、右道路は速度規制は法定速度(時速六〇キロメートル)であり、前方の見通しはよいが、右方は、広い中央分離帯があつてその周囲に高さ二・二メートルの金網フエンスが設けられていたため見通しが悪く、南行車線を進行する車からは、同交差点を右折する車が見えない状況にあつた。本件事故当時、南行車線には他の車は全くなく、また、天候は晴れで路面は乾燥していた。

(二) 被告坂本は、被告坂本車で阪神高速湾岸線を時速一〇〇ないし一二〇キロメートルで走行し、南港北出口で降りて南進しながら右南北道路(南行車線)に至り、右道路の中央分離帯から二番目の車線を時速一〇〇キロメートルを超える速度で進行した。本件現場交差点の手前約一五〇メートルで同交差点の青信号を確認し、図面〈ア〉地点で同交差点から約二〇〇メートル先にある次の交差点の青信号を見ていたが、本件現場交差点の停止線をすぎた辺りの図面〈イ〉で初めて約一五メートル右前方図面〈1〉の被告島田車を発見し、ブレーキをかけるなどの回避措置をとる間もなく図面〈×〉で衝突し、被告島田車は、同交差点の南東角のガードレールに激突した。

(三) 被告島田は、ドライブ目的で助手席に小、中学校の同級生で友人の宏之を乗せ、被告島田車を運転して走行中、本件現場交差点を青信号に従い時速一〇ないし二〇キロメートル程度で右折しようとして右のとおり被告坂本車と衝突した。

2  以上の事実によれば、本件事故につき、前記のとおり本件現場交差点の見通しが悪かつたのであるから、被告坂本においては、右折車の有無を確認し、安全を確認して走行する注意義務があつたのに、制限速度を四〇キロメートル以上も超えた速度で進行した過失があり、被告島田においては、右折の際、停止線辺りで対向直進車を十分確認して進行すべき注意義務があつたのにこれを怠つた過失があると認められる(なお、被告双方の過失割合は、前記事故態様に照らし、被告島田が四割、被告坂本が六割とするのが相当である。)。

また、本件事故は、宏之が被告島田車にドライブ目的で無償同乗した際に起きたのであり、無償同乗減額する事情は何ら認められないから、無償同乗減額の主張は採用できない。

二  争点2(損害)について

1  逸失利益(請求額三六七一万三〇四〇円) 三六七一万三〇四〇円

宏之(昭和四七年九月二七日生、本件事故当時、二一歳)は、有限会社伊勢吉において、平成六年一月一日付けで本給月額二六万円の約定で正式採用され、本件事故で死亡した同月一六日まで(同月一七日に退職扱いになつた。)一三日間勤務したことが認められ(甲四)、本件事故がなければ、少なくとも右収入を六七歳まで得ることができたはずであるから、生活費控除率を五割とし、ホフマン式計算法により中間利息を控除して逸失利益を算定すると、以下の算式のとおり三六七一万三〇四〇円となる。

260,000×12×(1-0.5)×23.534=36,713,040

2  慰謝料(請求額二〇〇〇万円) 二〇〇〇万円

前記した本件事故態様、宏之の年齢等を考慮すれば、二〇〇〇万円を認めるのが相当である。

3  葬儀費用(請求額一二〇万円) 一二〇万円

本件事故と相当因果関係のある葬儀費用としては、一二〇万円を認めるのが相当である。

4  以上の損害合計は五七九一万三〇四〇円となるが、前記した既払金合計四一六〇万一六〇〇円を控除すると、一六三一万一四四〇円となる。

5  弁護士費用(請求額一六〇万円) 一六〇万円

本件事案の性質、認容額等に照らし、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当損害額としては、一六〇万円を認めるのが相当である。

三  以上によれば、原告らの請求は理由があるから認容し、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木信俊)

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